中古住宅・中古マンションの価格は「立地」「面積」「築年」で語られがちですが、売買の現場で交渉力を左右するのが耐震性(=安全性に加え、融資・税制・保険の適用可否)です。買主が感じる不安は、資金計画の保守化(借入額の圧縮、自己資金の上積み要求)や、将来の改修費の見積りに直結し、その結果として「指値(値下げ要求)」という形で価格に表れます。
本ブログでは、制度上・実務上の節目になりやすい 1981年(新耐震)、木造で差が出やすい 2000年(基礎・接合部等の仕様明確化)、そして 2016年(熊本地震を踏まえ、年代・仕様差の有効性が公的に整理され“説明材料”が強化)という観点から、価格への影響を整理します。
※2016年は「新耐震の線引き」のような一律の法改正年という意味ではなく、熊本地震の被害分析等により、年代・仕様・耐震等級の差が示され、取引実務で説明根拠として使いやすくなった年として扱います。
1981年(新耐震)—「倒壊等で人命に危害を及ぼさない」へ目標が転換
1981年に導入された新耐震(一般に昭和56年=1981年)では、木造住宅を含む建築物の目標として、中規模地震(震度5強程度)ではほとんど損傷を生じないこと、さらに大規模地震(震度6強~7程度)では人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことが示されています。同時に、木造では必要壁量の見直し(強化)が行われたことも公的に整理されています。
価格への影響
新耐震か旧耐震かは、単なる安心感の差ではなく、融資や税制の要件と結びつきやすい点が重要です。たとえば「フラット35」の中古住宅では、建築確認日が昭和56年5月31日以前の場合、機構が定める耐震評価基準等への適合が追加で求められる旨が明記されています。
この「追加要件の発生」は、買主側の手間・費用・不確実性を生み、価格交渉の材料になりやすくなります。
- 旧耐震(確認日が昭和56年5月31日以前)の場合、融資要件を満たすために耐震評価等が論点になりやすい
- 旧耐震の買主は「耐震改修コスト」や「評価取得の可否」を資金計画に織り込みやすく、指値の根拠が作られやすい(=価格が守りにくい)
- 反対に新耐震は、少なくとも“旧耐震ゆえの追加要件”というハードルを回避しやすく、売却時の説明を簡素化できる
2000年(木造の基礎・接合部等の仕様明確化)—「新耐震の中でも差が出る」
2000年には、阪神・淡路大震災等の被害を受け、木造住宅について基礎や接合部の仕様などの基準の明確化が行われた、と公的に整理されています。
ここが実務上とても大きく、売買では「新耐震かどうか」に加えて、特に木造で「2000年以降か」が評価・説明の軸になります。
国土交通省の熊本地震関連資料では、新耐震導入以降の木造について、接合部の仕様等が明確化された2000年以降の倒壊率が低いこと、また現行規定どおりの接合部仕様等が倒壊・崩壊の防止に有効であった趣旨が示されています。
価格への効き方
買主が比較検討する際、「同じ新耐震」でも、“2000年以降の仕様明確化”は説明しやすく、安心材料として提示しやすいのがポイントです。結果として、同条件の比較で「値引きの強さ(交渉の余地)」が変わり得ます。
- 1981~1999年:新耐震である一方、2000年以降の仕様明確化との比較説明が必要になりやすい
- 2000年以降:少なくとも“接合部仕様等が明確化された以降”として説明がしやすく、耐震論点の不確実性を減らしやすい
※なお、2000年の整理は主に木造の論点です。RC造・SRC造等は別の確認事項(設計・劣化・改修履歴等)が中心になりやすく、個別性が高い領域は建築士等の専門家に確認することをお勧めします。
2016年(熊本地震)—「年代差・仕様差・耐震等級」の説明根拠が強化された
2016年の熊本地震は、旧耐震・新耐震・2000年以降の差を検証する契機となり、国土交通省資料等で整理が進みました。国交省の資料では、旧耐震が新耐震に比べて倒壊率が高いこと、新耐震が倒壊・崩壊の防止に有効であったこと、さらに2000年以降の倒壊率が低いことが示されています。
加えて、住宅性能表示制度に基づく耐震等級(倒壊等防止)3について、益城町中心部でも大きな損傷が見られず大部分が無被害だった旨が記載されています。
価格への効き方
耐震は「安全」の話で終わらせると抽象的ですが、保険や税制とつながると、数字のある説明になり、価格維持に寄与しやすくなります。
- 地震保険の割引制度:耐震等級割引等により、地震保険料が10%~50%割引となり得ることが公的・業界資料で示されています(重複適用不可等の条件あり)。
- 耐震改修の税制(所得税):旧耐震(昭和56年5月31日以前)等の要件を満たし耐震改修を行った場合の「住宅耐震改修特別控除」について、必要書類(建築士等の証明等)や要件が国税庁で整理されています。
- 証明書類の実務:減税で用いる証明書(増改築等工事証明書/住宅耐震改修証明書等)について、国交省が案内しています。
※税制適用は要件が細かく、個別事情(居住要件、所得制限、工事内容、期限等)で結論が変わり得ます。必ず税理士等の専門家に確認してください。
「どの基準に当たるか」を売買で誤らないための確認ポイント
耐震基準の区分を売買で取り違えないためには、「築年(竣工年)」の印象ではなく、原則として建築確認日を起点に整理することが重要です。実務上も、「フラット35」の中古住宅の技術基準では、住宅の耐震性について「建築確認日が昭和56年6月1日以後であること」を基準として示し、昭和56年5月31日以前の場合は機構が定める耐震評価基準等への適合が必要になる旨が明記されています。
このため、売主・買主双方にとっては、重要事項説明での説明に加え、建築確認日が確認できる資料で裏を取る運用が合理的です(確認日が読み取れる書類があるかどうかで、融資要件や説明負荷が変わり得るためです)。
次に、1981年と2000年の違いを説明するときは、「新耐震かどうか」だけでなく、とくに木造では2000年(平成12年)以降かを分けて語れるかがポイントになります。国土交通省の熊本地震の原因分析報告では、木造を「昭和56年5月以前」「昭和56年6月~平成12年5月」「平成12年以降」に区分して倒壊率等を整理しており、2000年以降の区分(接合部仕様等が明確化された時期)で倒壊率が低いことが示されています。
したがって、売買の現場では「1981年の新耐震」まで確認できたとしても、木造の場合はさらに一段踏み込み、2000年の仕様明確化が適用される時期に該当するかを、根拠資料と整合させて整理することが、説明の精度を高めることになります。
まとめ
耐震基準は「安全性」だけでなく、買主の融資判断や将来負担の見通しを通じて価格に影響します。1981年の新耐震は、旧耐震より倒壊・崩壊の防止に有効であることが公的に整理され、取引では大きな分岐点になりやすいです。 また木造では、2000年以降(接合部仕様等の明確化以降)の倒壊率が低いことが示されており、「新耐震の中でも2000年以降か」が比較と値付けで効きやすいポイントです。 2016年の熊本地震の分析は、これらの差を明確化する根拠となり、“どの区分に該当するか”が価格に直結することになりました。
だからこそ、売却を考え始めた場合は、早めに不動産会社に相談し、建築確認日や関連資料の有無、必要に応じた耐震診断・証明書取得の段取りまで含めて整理しておくことが重要です。物件の区分を根拠資料に基づいて早期に確定できれば、不要な値下げ交渉を招きにくくなります。
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