不動産価格が下がる局面ではどう売る?市況悪化に備えた売却戦略

不動産売却コラム

2026年9月時点では、日本の不動産市場全体が明確な下落局面に入ったとはいえません。一方で、これまでの一方向の価格上昇とは異なる動きも見られるようになっています。

特に東京の中古マンション市場では、成約件数の減少や在庫の増加が見られ、売出価格と成約価格の差が大きく開くエリアもあります。不動産価格そのものが大きく下落する前に、まず「売れにくくなる」という形で市場の変化が表れ始めている点には注意が必要です。

今回は現在の不動産市況を確認したうえで、売出価格と成約価格が離れる「ワニの口」と呼ばれる現象や、本格的な下落局面に備えた売却戦略について解説します。

現在の不動産市況はどうなっている?

現在の不動産市場を「上昇している」「下落している」の二択だけで判断するのは適切ではありません。地域や物件種別による差が大きく、市場の二極化・選別化が進んでいるためです。

その変化が比較的分かりやすく現れているのが、東京の中古マンション市場です。

東日本不動産流通機構(REINS)のデータを基にした2026年8月の東京都中古マンション市場では、成約件数は1,562件で前年同月比18.7%減、成約平均価格は6,826万円で同0.4%減となりました。価格の下落幅自体は小さいものの、成約件数が大きく減少している点が特徴です。

さらに東京都全体では、2026年8月の中古マンション在庫件数が2万8,082件となり、前年同月比21.3%増加しています。一方で成約件数は減少しているため、販売中の物件が市場に積み上がる状況が見られます。

特に都心部では、この傾向がより顕著です。千代田区・中央区・港区の都心3区では、2026年8月の成約件数が154件で前年同月比38.9%減となる一方、在庫件数は5,197件で同58.1%増となっています。成約価格は1億4,175万円と前年同月比4.5%上昇していますが 、一部の高額物件が平均価格を押し上げている可能性もあり、「価格が上がっているから市場は強い」と単純には判断できない状況です。

このような局面では、平均成約価格だけではなく、

  • 成約件数が減っていないか
  • 在庫物件が増えていないか
  • 販売期間が長くなっていないか
  • 値下げ物件が増えていないか
  • 売出価格と成約価格の差が広がっていないか

といった指標を合わせて見る必要があります。

マンションリサーチによる東京都23区の中古マンション調査でも、価格水準だけでなく、値下げ率や販売日数といった「流動性」に変化が出ていると分析されています。特に都心部では、値下げを行っても成約までに時間がかかる傾向が確認されています。

つまり、現在は全面的な価格下落局面とはいえないものの、高値を維持したまま取引量が減り、在庫が増える状況にあります。

売出価格と成約価格が離れる「ワニの口」に注意

現在の中古マンション市場を考えるうえで、特に注目したいのが売出価格と成約価格の乖離です。

売出価格とは、売主が物件を市場へ出す際に設定する希望価格です。一方、成約価格は実際に買主との間で売買契約が成立した価格です。

この2つの価格差が大きく開き、グラフにするとワニが口を開いたような形になる状態が、一般に「ワニの口」と表現されることがあります。公的な統計用語ではありませんが、売主と買主の価格認識のズレを説明する際に使われています。

2026年8月の東京都全体では、中古マンションの平均成約価格が6,826万円であるのに対し、新規登録された物件の平均売出価格は8,955万円でした。単純計算では2,000万円を超える差があります。

ただし、この差をそのまま「2,000万円値引きして売れた」と解釈することはできません。新規登録価格はその月に新たに売り出された物件の平均値、成約価格はその月に実際に契約された別の物件の平均値であり、同じ物件について売出価格から成約価格までを追跡した数字ではないためです。

それでも、この「ワニの口」を意識することには意味があります。売主はこれまでの上昇相場を前提に高い価格で売りたい一方、買主はその価格についてこなくなっている可能性があるという点を明らかにするからです。この状態が長く続けば、売れない物件が在庫として積み上がり、売主側が価格を修正する圧力が強くなること予想されます。

売却を検討している方は、価格が下がった後ではなく、この段階から売却戦略を見直すことが重要になります。

下落局面では「高く出して様子を見る」が裏目に出ることも

不動産を売却するとき、「最初は少し高めに出して、売れなければ徐々に値下げすればよい」と考える売主は少なくありません。上昇相場では、この販売方法が機能することも多く、今までは有効な考え方だったと言えます。現在の相場が5,000万円の物件を5,300万円で売り出しても、数か月後に周辺相場が5,300万円まで上昇すれば、市場価格が売出価格に追いつく可能性があるためです。

しかし、価格が下がる局面では逆の現象が起こります。

現在の適正な成約価格が5,000万円程度の物件を5,500万円で売り出したとします。3か月売れず、5,200万円へ値下げしたとしても、その間に周辺相場が4,800万円まで下がれば、値下げ後も市場価格より400万円高い状態です。さらに数か月後に4,900万円へ値下げしても、その時点で相場が4,600万円まで下がっていれば、依然として市場価格より高い状態が続きます。価格を下げているにもかかわらず、市場価格を追いかけ続ける状態に陥ってしまいます。

下落局面では、この販売期間の遅れが売却条件を悪化させる可能性が高くなるため、査定価格の「高さ」だけで不動産会社を選ぶのは非常に危険です。直近の類似物件の成約価格、現在販売中の競合物件、在庫数、値下げ状況、販売期間などを確認し、その価格で売れる根拠を確認することが重要になります。

特に注意すべきは、過去の成約事例だけに依存しないことです。相場が転換する局面では、半年前や1年前の成約価格が現在の買主の価格感覚と合わなくなる可能性があります。そのため、直近1~3か月程度の成約状況や競合物件の動きを確認しながら、売出価格を設定する必要があります。

販売開始後の検証も重要です。

物件情報へのアクセスはあるのに問い合わせが少なければ、価格が購入検討者の検索条件から外れている可能性があります。内覧はあるものの申し込みが入らない場合には、価格と物件条件のバランスを競合物件と比較する必要があります。

市況が弱くなるほど重要なのは、「値下げするかどうか」ではなく、市場から大きく離れた価格で長期間販売しないことです。

まとめ

2026年9月時点で、日本の不動産市場全体が本格的な下落相場へ入ったと判断することはできませんが、東京の中古マンション市場を見ると、成約件数の減少、在庫の増加、販売期間の長期化、売出価格と成約価格の乖離といった変化が見られ始めています。

本格的な下落局面では「できるだけ高く売り出して、売れなければ値下げする」という方法が必ずしも有効ではありません。市場価格が下がる速度よりも価格調整が遅ければ、何度値下げしても相場より高い状態が続き、販売期間だけが長くなる可能性があるためです。

これから不動産を売却する場合は、直近の成約価格だけでなく、競合物件の在庫、値下げ状況、販売期間なども確認し、市場の変化に応じて早めに販売戦略を修正することが重要です。

不動産市場が転換する局面では、「いくらで売りたいか」だけではなく、「現在の市場でいくらなら売れるのか」を冷静に見極め、売却を長期化させないことが最も重要なポイントになります。

## 出典・参考資料

公益財団法人 東日本不動産流通機構(REINS)  「月例マーケットウォッチ 2026年8月度」 

東急リバブル 「2026年8月度 東京都の不動産市況」 

ダイヤモンド不動産研究所  「東京都中古マンション価格推移 都心3区の成約価格と売出価格の差(ワニの口)は約5000万円に縮小」 

マンションリサーチ株式会社 「東京都23区の中古マンション、流動性低下が鮮明に 価格高騰と金利上昇で『買える価格』に変化」 

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